大阪地方裁判所 昭和58年(わ)6056号 判決 1985年3月25日
本店所在地
大阪府吹田市千里山東二丁目二一番三〇号
商号
有限会社杉林米穀店
右代表者代表取締役
杉林巌
本籍
大阪府吹田市垂水町一丁目六七一番地の一
住居
大阪府吹田市千里山東二丁目二一番三〇号
会社役員
杉林巌
昭和九年一二月八日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官竹下勇夫出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人有限会社杉林米穀店を罰金五五〇万円に、被告人杉林巌を懲役八月に各処する。
被告人杉林巌に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人有限会社杉林米穀店は、大阪府吹田市千里山東二丁目二一番三〇号に本店を置き、米穀、燃料等の販売業を営むもの、被告人杉林巌は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統轄しているものであるが、被告人杉林巌は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、
第一 被告人会社の昭和五三年七月一日から同五四年六月三〇日までの事業年度において、その所得金額が別表一の記載のとおり一六、三七七、二六二円で、これに対する法人税額が五、七一〇、八〇〇円であるのにかかわらず、売上げの一部を除外し、よって得た資金を無記名定期預金等として留保するなどの行為により右所得の全部を秘匿したうえ、同五四年八月三一日、大阪府茨木市上中条一丁目九番二一号所在の所轄茨木税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は欠損二、二四八、三九一円で、納付すべき法人税はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、法人税五、七一〇、八〇〇円を免れ
第二 被告人会社の同五四年七月一日から同五五年六月三〇日までの事業年度において、その所得金額が別表二の記載のとおり一六、八四五、二一三円で、これに対する法人税額が五、八九八、〇〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正行為により右所得の全部を秘匿したうえ、同五五年九月一日前記茨木税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は欠損五、六六九、七四五円で、納付すべき法人税はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、法人税五、八九八、〇〇〇円を免れ
第三 被告人会社の同五五年七月一日から同五六年六月三〇日までの事業年度において、その所得金額が別表三の記載のとおり一三、八七一、三五九円で、これに対する法人税が四、八六五、八〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正行為により右所得の全部を秘匿したうえ、同五六年八月三一日前記茨木税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は欠損七、一八九、四二九円で、納付すべき法人税はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、法人税四、八六五、八〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人杉林巌の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書八通
一 被告人杉林巌作成の確認書及び売掛金調査表
一 宮内高志の検察官に対する供述調書
一 檜口隆一の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書
一 吉中貞知の検察官に対する供述調書
一 中辻正次、下原謙二(二通)、清水康弘、岩森次郎、高田竹彦、畔内惣一、内藤政行、上田範雄、藤木巌の大蔵事務官に対する各供述調書
一 登記官作成の登記簿謄本
一 被告人杉林巌作成の証明書
一 大蔵事務官作成の昭和五七年八月一一日付証明書
一 大蔵事務官作成の「各期末現金残高」、「当座預金残高」、「当座勘定元帳」、「全預金の各期末残高・受取利息」、「個人帰属預金」、「売掛金」、「売掛金明細表」、「各期末商品残高」、「固定資産」、「社長貸付金(54/6、55/6、56/6期)」、「未払金」、「未払金(個人引継)」、「借入金、支払利息(大阪/千里山)」、「社長借入金(54/6、55/6、56/6期)」、「松栄ヴイラ現金入金額」、「社長貸付金(52/6、53/6期)」、「西尾工務店に対する支払」、「米穀仕入(西村商事(株))」、「米穀の仕入(大阪米穀卸販売(株)、大阪米商(株))」、「米穀仕入(大阪第一食糧事業(協))」と題する各査察官調査書
一 大蔵事務官作成の「普通預金の各期末残高」、「定期預金の各期末残高、受取利息(手取額)」、「仮払税金、未払税金及び受取利息(手取額)」、「仮払税金、未払税金及び受取利息」、「買掛金」と題する各査察官調査書抄本(弁護人同意部分)
一 大蔵事務官作成の現金預金有価証券等現在高確認書三通、たな卸商品等在庫高確認書三通
一 南勝義、清水康弘(六通)、太田弘道(二通)作成の各確認書
一 箱田育弘、横溝豊(二通)、志賀修一作成の「取引内容の照会に対する回答」と題する各書面
一 小松茂雄作成の確認書(毛皮コート類の販売)
一 押収してある自動車台帳一綴(昭和五九年押第五二五号の1)、家計簿七冊(同号の2乃至4)、利息計算書等一綴(同号の5)、預金利息計算書一綴(同号の6)、定期預金利息計算書一綴(同号の7)、大阪千里山岡山健二名義使用済普通預金通帳三冊(同号の8)、同野沢博名義使用済普通預金通帳三冊(同号の9)、同山本正義名義使用済普通預金通帳三冊(同号の10)、同大前清二名義使用済普通預金通帳六冊(同号の11)、預金入出金メモ帳一綴(同号の12)、日付、金額記載のメモ一綴(同号の13)、「税金」と題する帳簿一綴(同号の14)、メモ等二綴(同号の15)、大阪千里山大阪弘名義使用済普通預金通帳一冊(同号の16)、同岡山健二名義使用済普通預金通帳二冊(同号の17)、定期預金お利息計算書一綴(同号の18)、領収書及び名刺メモ一綴(同号の19)、売掛金元帳一綴(同号の20)、大阪第一食糧事業協卸売販売台帳二綴(同号の21)、解約済定期預金印鑑票一束(同号の22)
判示第一の事実につき
一 第四回(差戻後)公判調書中の証人坂本三郎の供述部分
一 大蔵事務官作成の昭和五四年八月三一日提出の法人税確定申告書の証明書
判示第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の昭和五五年九月一日提出の法人税確定申告書の証明書
判示第三の事実につき
一 大蔵事務官作成の昭和五六年八月三一日提出の法人税確定申告書の証明書及び昭和五六年九月三〇日提出の法人税修正申告書謄本の証明書
(弁護人の主張に対する判断)
一 弁護人は、税務行政上、所得の実額が把握できない場合、財産増減法、比率法、効率法、消費高法等の推計を用いての所得額の認定がなされているが、刑事裁判においては、推計による所得額が実額を超えることがあってはならない保障が必要であり、仮に財産増減法により所得額を認定するとしても、他の方法によって算出された所得額と一致しなければならない、もし一致しない場合には、推計による所得額のうち最も低い額が、実額に最も近似する可能性があるから、最も低い額を採用すべきである。検察官指摘の被告人会社の昭和五四年六月期の売上高が一五二、七〇六、五三五円、仕入高合計一一〇、〇二六、四九七円、必要経費二四、五八四、四一八円、昭和五五年六月期売上高一五二、九八九、九八〇円、仕入高合計一〇八、四八七、四五八円、必要経費二六、九四六、九五七円、昭和五六年六月期売上高一六一、三七九、八五四円、仕入高合計一二一、五五二、一六七円、必要経費二四、五四八、四一八円であるならば、各年度の売上総利益率、純利益率とも、大阪国税局の米穀販売店の標準利益率(売上総利益率一八パーセント、純利益率八・五パーセント)に比し、非常に高い。被告人会社は米を個人に店頭販売する際、一〇キログラムにつき六〇〇円値引していたから、同業他社に比して利益率は低いはずである。従って、検察官主張の如く収益をあげえなかったものであり、他の所得算定方法をなし、その低い額をもって、所得を認定すべきである旨、主張する。
被告人会社は、法人であるにもかかわらず、各種帳簿の記帳を怠り、その結果、損益計算法により所得の実額を算出することが困難であることは証拠上明らかである。検察官において、財産増減法によりその所得額を立証しているが、同方法は所得額立証の方法として合理性がある。なお、所得の推計の方法として、他に弁護人指摘の方法があるが、被告人会社は、米穀販売の他プロパンがス販売、麻雀店の営業もしており、米穀店の同業他社の標準利益率により算出することは相当ではない。また米穀販売に際しては、政府米の他いわゆる自由米の販売もしており、政府米の平均利益率を参考にすることも、相当でない。
以上の点を考慮すれば、本件所得額算定にあたり、財産増減法をもって算出する方法には、十分合理性があり、他の方法を用いて算出し、これと比較する必要はない。弁護人の右主張は採用できない。
二 弁護人は、被告人杉林の手持ち現金に関し、次のとおり主張する。
被告人杉林は、昭和五一年被告人会社を設立時、現金三、〇〇〇万円を所持していたが、その後右金員を利用し、個人として坂本三郎に対し金員の貸付をしたり、西村商事株式会社等から自由米を仕入れしたが、その手持現金、返済金や売上金は被告人会社の金員と順次混同し、被告人会社の仕入に費消されたり、被告人会社名義等で預金されたり、あるいは被告人杉林やその家族の生活費に費消された。従って、右被告人会社のために支出された分は、被告人会社の被告人杉林からの借入金として計上計算し、被告人らの生活費に費消された分は、被告人会社の被告人杉林への生活費分の貸付金から減額すべきであり、この各年度の金額は、検察官において、主張立証すべきである。あるいは、被告人杉林の右手持現金三、〇〇〇万円を被告人会社の借入金とし、期首の現金有高を同額増額し、その後の各期末の現金残高を確定して順次減少させるべきである旨主張する。
被告人杉林は、公判廷において、法人設立時三、〇〇〇万円位の現金に所持し、本社建物の四階に保管していた、法人成後右手持現金を坂本三郎らに貸し付けたり、被告人会社とは別に西村商事株式会社、大阪米穀卸販売株式会社等から自由米を仕入れ、手持の右現金で支払をしたもので、大阪銀行千里山支店の岡山健二等名義の仮名預金を引出して支払ったものではない旨供述する。
右供述部分の信用性につき検討する。
(1) ところで、押収してある昭和五二年の家計簿(昭和五九年押第五二五号の2の1)の五月二九日欄には、「ドロボー一三一万円」の記載があり、被告人杉林も大蔵事務官に対する昭和五七年六月一三日付質問てん末書で、一階店舗の机の引出の現金一三一万円が盗難にあった旨述べている。また、前掲現金預金有価証券等現在高確認書によれば、同五七年三月九日国税局査察着手時の現金有高は合計六四七、八八七円であった。
(2) 被告人杉林は、被告人会社設立に際し、三〇〇万円出資し、五一年八月二、七〇〇万円増資した。そして、被告人会社は、店舗及び被告人杉林とその家族居住用の本社建物を建築するため、五一年一二月五日大阪銀行千里山支店から三、〇〇〇万円借入れ、次いで同五三年三月泉町支店の改装に一〇〇万円を、同年一一月本社建物追加工事に四五〇万円支出している。
(3) 横溝豊作成の「取引内容の照会に対する回答」と題する各書面、被告人杉林及びその妻記載の家計簿(同号の2乃至4)の記載事項、自動車台帳一綴(同号の1)、税金と題する帳簿一綴(同号の14)、証人坂本三郎の証言などによれば、被告人杉林は坂本三郎、三好誠らに金員を貸付け、その返済を受けたことが認められるが、その貸付時期、金額、返済時期等は必ずしも判然としない。そして、右証拠によれば、各期末における貸付金は、検察官主張以外のものは認められない。
(4) 押収してある日付、金額記載のメモ一綴(同号の13)、メモ等二綴(同号の15)、岩森次郎、檜口隆一の大蔵事務官に対する各質問てん末書、檜口隆一、吉中貞知の検察官に対する各供述調書によれば、被告人杉林乃至被告人会社は、西村商事や大阪米穀卸販売から継続して自由米を仕入ていたが、仕入の帳簿には記帳していなかった。大蔵事務官作成の西村商事、大阪米穀卸販売からの仕入についての各査察官調査書によれば、その仕入金額は、高額であり、三、〇〇〇万円を著しく超えている。
被告人杉林乃至被告人会社は、右自由米を販売したが、その販売に当り、被告人会社の仕入が記帳された米の販売と格別区分されていた事実はない。そして、被告人会社で押収された岡山健二ら名義の使用済普通預金通帳(同号の8、9、10、11、16、17)、清水康弘、太田弘道作成の各確認書によれば、右仮名預金には、ほぼ毎日のように多額の入金がされているが、右自由米の売却分とこれと異なる分と区別されていない。
右仮名預金から多数回にわたり金員が出金されているが、そのうち右仮名預金の出金の時期及び金額と、西村商事等に対する支払の時期及び金額とが相応するものが多く、右仮名預金通帳には右仕入先と認められる記号が付されているものがある。
これらの諸事実によれば、西村商事等からの自由米の仕入は、被告人杉林個人の事業ではなく、被告人会社の簿外仕入であり、被告人会社の仮名預金から出金して支払っていたものと認められる。
(5) 被告人杉林は、捜査の段階では、被告人杉林個人から被告人会社への引継現金は一二〇万円、被告人会社の各期末の現金有高は一二〇万円である旨供述し、かかる高額の手持現金の主張はしていない。そして、被告人杉林の右供述変更理由の公判供述はあいまいであり、未だ首肯できない。
(6) これらの事情を総合考慮すれば、被告人杉林の前記三、〇〇〇万円相当を手持ちしていた旨の供述部分は未だ措信できない。他方、被告人杉林の大蔵事務官に対する昭和五七年六月一三日付質問てん末書中の各期末の現金残高は一二〇万円である旨の供述記載は十分信用することができる。
三 弁護人は、定期預金中別表一の大阪銀行千里山支店の無記名定期預金につき、被告人杉林は従前多額の当座預金、普通預金、定期預金等を有し、これらを解約したり、または前二指摘の個人手持現金三、〇〇〇万円を運用したり、被告人杉林所有の松栄ヴイラの家賃収入を得て、無記名定期預金したもので、これらは被告人杉林に帰属する預金である旨主張する。
被告人杉林は、公判廷において、弁護人主張にそう供述をしている。
(1) 前二説示のとおり、被告人杉林は法人成時三、〇〇〇万円位の現金を持っていたものとは認められない。
また、被告人杉林において被告人会社とは別に、西村商事等から自由米を仕入れこれを販売していたとは認められず、右仕入は被告人会社の簿外仕入というべきである。
(2) 後記六説示のとおり、被告人杉林は、弁護人主張の松栄ヴイラ家賃現金収入を得ていたものとは認められない。
(3) 被告人杉林において、他に格別所得を得る事業等はしていない。
(4) 大阪銀行千里山支店の外交等担当者の藤木巌、中辻正次、下原謙二、清水康弘の大蔵事務官に対する各質問てん末書、預金入金メモ帳一綴(同号の12)によれば、右銀行員らは被告人杉林やその妻百合子から金員を受けとり、あるいは他の預金からの預け替を指示されて、無記名乃至仮名の定期預金を設定することにし、定期預金印鑑紙、預金管理表に「杉」や「杉林」と記載して他の預金者と区別してその手続をしたことが認められる。
太田弘道、清水康弘作成の各確認書によれば、昭和五一年八月から被告人会社が日常利用してきた普通預金から出金されたものと、その後ころになされた定期預金を比較すれば、その出金日及び出金額と右定期預金の預金日及び預金は近似しているものが多い。
(5) 被告人杉林は、捜査段階では、概ね次のとおり述べている。即ち、被告人会社の売上金は、被告人会社名義の普通預金と仮名乃至無記名の普通預金に入金し、被告人会社名義の普通預金は、被告人会社の支払のため出金し、仮名無記名の普通預金は出金して無記名定期預金にしたり、西村商事等に対し自由米の支払をした、被告人会社設立後の無記名定期預金や被告人杉林やその家族名義の定期預金は、被告人会社の売上や仮名普通預金から出金して預金したものである旨述べている。そして、被告人杉林は、普通預金や定期預金の各期末の残高を確認し、被告人会社帰属分を確認し、他方被告杉林に帰属すべきもの、例えば奈良カントリークラブのゴルフ会員権の売却代金相当額を預金したものにつき、個人帰属の預金である旨主張している。
右供述記載は、前記物証等に符合し、信用性に欠ける点はない。
(6) 以上によれば、弁護人指摘の無記名定期預金は、いずれも被告人会社帰属の普通預金(この点は、その入金の日及び額から明らかである。)から出金された金員、あるいは被告人会社の売上から預金されたものと認められ、被告人会社に帰属するものと認められる。弁護人の主張は採用できない。
四 弁護人は、建物につき、昭和五三年一一月本社建物になした追加工事(工事価額四五〇万円)につき、固定資産の減価償却をすべきである旨主張する。
本社建物に右追加工事がなされたが、被告人会社は、同工事取得分につき確定申告をせず、かつその償却費として損金経理をしていないから、減価償却をしないのは正当である。弁護人の主張は、失当である。
五 弁護人は、貸付金の勘定科目中、後記のものはいずれも被告人会社の営業上の経費であり、被告人会社の被告人杉林に対する貸付金にあたらない旨主張するので、以下順次検討する。
1 弁護人は、被告人会社は昭和五三年六月ポルシェ九一一、同年五六年二月ベンツ二八〇CEを購入しているが、これらは被告人会社が接客、商品の配送に使用したもので、被告人杉林とその家族がドライブ等の遊興に使用したことはないから、被告人会社の車輌であり、これらの購入代金は被告人会社の被告人杉林に対する貸付金に該当せず、その保険料、税金等は車輌の管理費であるから、貸付金に該当しない。右車輌は被告人会社の車輌運搬具として計上した上で、法定償却すべきである旨主張する。
被告人杉林は、公判廷において、右主張にそう供述のほか、子供らが土曜日、日曜日には右外車を用いて米穀の配送をした旨供述する。
(1) 弁護人指摘の車輌は、被告人会社作成の確定申告書三通に、いずれも公表計上されていない。
(2) 証人坂本は、「被告人杉林に対し多数の外車を売り渡したが、同被告人はポルシェSOS以外の外車は利殖目的で買い入れ、その後売り払っていた、同被告人はそれらの車を購入後、半年乃至一年乗ることもあるが、これは結果であり、自ら使用する目的で購入したものではない。」旨証言している。
(3) 自動車台帳(同号の1)には、多数の車の取得年月日や金額のほか、売却年月日や金額が記載されている。また税金と題する帳簿一綴(同号の14)の自動車の項は、買及び売の項に分けて、記帳されている。
(4) 前記家計簿には、昭和五三年(同号2の2)の六月一日欄「二人の子供がポルシェを買って欲しいと言った、どうせ買うなら早く買ってあげる。」旨、九月一七日付欄「吉田氏とすし、食事ポルシェ」旨の記載同五四年(同号2の3)の四月一日欄「ポルシェで千里ゴルフ」旨、六月二四日欄「夜BMW秀一帰った、三時に着く、ポルシェで百合子と二人で行った」旨、同五六年(同号3の1)の六月二一日欄「祐次、秀一、百合子四人でベンツで芦屋へ食事へ行く」旨の記載など、個人的用途で運転したことを示す記載が多くある。
(5) 被告人杉林は、公判廷において、坂本に金を貸す際、担保として外車を預り、そのうち一部の車は坂本の展示場へ預けた旨述べている。
(6) これらの事情を考慮すれば、弁護人指摘の車輌は、被告人会社の業務用車輌ではなく、被告人杉林の車輌であり、その購入費、保険料、税金相当額は被告人杉林に対する貸付金というべきである。
2 弁護人は、JCBカードを利用した買物中、次のものは、被告人会社の交際、福利厚生のため支出したもので、同会社の被告人杉林に対する貸付金に該当しない旨主張する。
(1) 53・12・17ハンキュウヒャッカテン九〇〇円、九八〇円、三、〇〇〇円、三、〇〇〇円、三、二〇〇円、三、八〇〇円、四、〇〇〇円、七、六〇〇円、一五、〇〇〇円、一九、五〇〇円、二五、〇〇〇円、三七、〇〇〇円
被告人杉林は、妻百合子がカードを利用して被告人会社の顧客用の歳暮用品を購入した旨供述する。
被告人杉林の公判廷における供述によれば、番号2のカードは、妻百合子が利用管理しているものである。本件価格は相当異なっている。ところで大丸エクセルカード支払明細によれば、昭和五三年七月二三日サケウリバで六五、八五〇円購入して、進物品等にしている。右事実によれば、右供述部分はたやすく措信できず、百合子が同人乃至その家族のため買物をしたものと認められる。
(2) 54・1・14ハンシンヒャッカテン三、〇〇〇円
百合子が利用したもので、未だ被告人会社の業務との関連性は認められない。
(3) 54・1・28オリタ一〇〇、〇〇〇円
被告人杉林は、アルバイト学生が退職した際服を購入して与えた旨供述するが、家計簿(同号2の3)の同日欄には「百合子服一〇万円」との記載があり、右供述は措信できない。被告人会社の業務との関連性はない。
(4) 54・4・15サトスシハン四、九〇〇円
家計簿の同日欄には、「百合子と多田神社へ行った帰途、宝塚で食事四、八〇〇円」旨の記載があり、業務との関連性はない。
(5) 54・7・22ハンキュウヒャッカテン五、〇〇〇円
同日欄には、「祐次の先生である田橋先生へ中元、こぶ五、〇〇〇円阪急百貨店」旨の記載があり、業務との関連性はない。
(6) 54・7・29ダイマル九、〇〇〇円、一一、〇〇〇円
同日欄には、「一人で大丸へ行く、ズボン一一、〇〇〇円、スポーツシャツ九、〇〇〇円」の記載があり、業務との関連性はない。
(7) 54・11・18タカシマヤオオサカミセ二、五〇〇円、一五、〇〇〇円、二四、〇〇〇円、二五、〇〇〇円、四四、八〇〇円、九四、〇〇〇円、一一〇、〇〇〇円
同日欄には、「百合子とBMで高島屋百貨店へ、被告人杉林用の絹コート、ジャケット、ズボン、靴を、百合子用にパンタロン、シャツ、ネックレス等を買った」旨の記載があり、業務との関連性はない。
(8) 54・12・12マツザカヤタカツキテン五〇、三〇〇円、九、六〇〇円
同日欄には、「大久タンス二台一四万、一六万、合計三〇万」旨の記載があり、右記載からすれば未だ業務との関連性はない。
(9) 54・12・16マツザカヤタカツキテン四、〇〇〇円、四、八〇〇円、五、〇〇〇円、七、八八〇円、九、〇〇〇円、一一、二〇〇円
同日欄には、「百合子と二人で松坂屋百貨店へ買物へ行った、一〇万円」等との記載があり、業務との関連性はない。
(10) 54・12・23ハンキュウヒャッカテン六、五〇〇円
百合子が利用購入したもので、同日他にユリヤ一二、八〇〇円の買物利用があることからして、業務との関連性はない。
(11) 56・1・27ダイエースイタSC四八、九〇〇円
昭和五四年の家計簿(同号2の4)の同日欄には「メガネ購入」との記載があり、被告人会社の業務のための支出とはいえない。
(12) 56・2・11ベンテンスシ一六、二四〇円
同日欄には、「堤と二人で車で行く、弁天料理へ」とあり、業務上必要な交際費とも未だ認められない。
(13) 56・2・24ハンキュウヒャッカテン一九、〇〇〇円
同日欄に、「被告人杉林ワイシャツ一万円、祐次の先生ヘワイシャツ一万円」とあり、業務との関連性はない。
(14) 55・3・16セイプヒャッカテン四、八八〇円
同日欄には、「吉田、百合子と北野天満宮へ行き、右百貨店へ買物に行き土産などを買う」旨の記載がある。業務との関連性はない。
(15) 55・3・16サントノレ四九、〇〇〇円
被告人杉林の供述によれば、カード番号3は被告人杉林の子供らが使用するカードであり、本件は秀一がカードを利用して洋服を購入したものである旨供述する。右洋服購入は、被告人会社の事業との関連性はない。
(16) 56・4・13ダイマル一五、〇〇〇円
被告人杉林の使途についての供述はあいまいである。被告人杉林の子供らが利用した買物であり、未だ業務との関連性は認められない。
(17) 55・4・20セイブヒャッカテン二一、〇〇〇円、六八、〇〇〇円
同日欄には、「祝ふろしき」との記載があり、被告人杉林は、結婚祝であると公判廷で供述していることからすると、未だ業務との関連性は認められない。
(18) 55・5・4リチャード五二、〇〇〇円
同日欄には「Yシットバック」との記載があり、被告人杉林は兄の子供に与えた旨供述しており、業務と関連性はない。
(19) 55・6・22タカシマヤオオサカミセ一〇、〇〇〇円
被告人杉林は、子供がカードを利用して買物し、これを従業員に給料追加分として与えた旨供述するが、右供述部分それ自体たやすく措信できない。子供が使用したことからすれば、未だ業務との関連性は認められない。
(20) 55・7・20ダイキチ九、五〇〇円
被告人杉林は、子供らに買わせた帯を、アルバイトの堀芳孝に与えたものである旨供述するが、たやすく措信できず、右品物からして被告人会社の業務と関連性はない。
(21) 55・8・15セイブヒャッカテン四二、八〇〇円
同日欄には「百合子服を買う」との記載があり、業務との関連性はない。
(22) 55・8・15アイユウストア九、五八〇円、マツザカヤタカツキテン二、四〇〇円、三、八〇〇円、七、六〇〇円、一三、四〇〇円
同日欄には、「祐次、百合子と垂水墓地へ行き、その後百合子らが八人」旨の記載があり、百合子が利用した買物であることからすれば、業務との関連性はない。
(23) 55・8・17ダイエースイタSC五〇、〇〇〇円
同日欄には「百合子眼鏡四五、〇〇〇円」の記載があり、業務との関連性はない。
(24) 55・9・5ロク五、〇〇〇円、二〇、〇〇〇円
子供らが利用購入したもので、昭和五六年五月一二日当座預金から三六、〇〇〇円出金し、ロクヘ秀一のズボン代を支払っていることからすると、被告人会社の業務との関連性はない。
(25) 55・10・19セキソウイチノミセ四二、〇〇〇円
56・1・2ナンバシテイ一五、二〇〇円
被告人杉林は、いずれも子供らがスキー服、スキー用手袋を購入した旨供述する。後記4(3)説示のとおり秀一、祐次は被告人会社の従業員ではない。従って、被告人会社の業務との関連性はない。
(26) 56・1・5ナビオハンキュウ二、三〇〇円
被告人杉林は、秀一が仕事用のズボンを購入した旨供述するが、右のとおり秀一は従業員ではないうえ、その価格等からして未だ業務との関連性は認められない。
(27) 56・1・15イツテンシヨウ二八、〇〇〇円
子供らがカードを利用した買物である。被告人杉林は、当初被告人会社用印鑑を購入した旨述べ、後に被告人会社従業員用のスキー服を購入した旨述べ、その供述はあいまいである。
昭和五六年の家計簿(同号3の1)の一月一七日欄には、「秀一と琵琶湖方面ヘスキーヘ行く」旨の記載がある。他方、右家計簿には、アルバイト学生らとスキーに行った旨の記載はない。従って、右供述部分は措信できない。
子供らが利用したものであることなどからすれば、業務との関連性はない。
(28) 56・2・8シコー八八、〇〇〇円
同日欄には、「心斎橋で百合子のカバー買う。一六万円を八八、〇〇〇円で」旨の記載がある。業務との関連性はない。
(29) 56・3・23スタンダードセキユ五、一八五円
56・3・28右同 四、〇九五円
56・3・30右同 一、八〇〇円、二、七九五円、六、八九〇円
子供らが利用購入したもので、未だ被告人会社の業務に関連するものとは認められない。
(30) 56・3・28ナカニワソウホンテン二五、〇〇〇円
子供らが利用したもので、未だ業務との関連性は認められない。
3 弁護人は、大丸エクセルカードを用いた買物のうち、次のものは、被告人会社の交際費、福利厚生費等であり、経費に該当する旨主張する。
(1) 53・10・29シンシハダギ、セーター六、五〇〇円、ショクリョウヒン三、七八〇円、一、一九〇円、一、四〇〇円
被告人杉林は、公判廷において、アルバイト学生のため婦人服、セーター等を買い、同人らに与えた旨供述する。
家計簿(同号2の2)の同日欄には、「百合子と二人で大丸へ買物に、被告人杉林用パジャマ六、八〇〇円、百合子ズボン二本購入、その後食事帰宅」の記載がある。
右記載によれば、被告人杉林とその家族のためなされたものと認められる。被告人会社の業務との関連性はない。
(2) 55・2・24スポーツ用品四、九〇〇円
被告人杉林のこの点に関する供述は判然としない面がある。
右買物の品目、後記説示の被告人会社従業員の数からすれば、未だ被告人会社の業務との関連性は認められない。
(3) 55・3・30ユイノウカザリ三、六〇〇円
昭和五五年の家計簿(同号2の4)の同日欄には、「御祝袋一、八〇〇×二」との記載があり、未だ業務上必要なものとは認められない。
4 弁護人は、当座預金から支払った弁別表二の項目、また総勘定元帳に記載し現金払や仮払した弁別表三の項目につき、次のとおり主張する。
(1) 弁護人は、ポルシェ等の外車は、被告人会社の車輌であり、ポルシェ修理費、同車の保険料、税金等は営業上の経費である旨主張する。
前五説示のとおりこれらの車輌は被告人会社の車輌ではなく、右主張は何れも失当である。
(2) 弁護人は、54・7・24出金一〇、〇〇〇円宮脇先生分につき、車の交通安全きとう料であり、被告人会社の経費である旨主張する。
被告人杉林は、右主張にそう供述をするが、「当座勘定元帳」の査察官調査書の当座勘定入出金調査表によれば、宮脇先生への御仏前であり、被告人会社の事業との関連性はない。
弁護人は、54・9・27出金三、〇〇〇円被告人杉林貸金庫分は、被告人会社の経費である旨主張する。
被告人杉林のなした出費と認められるが、未だ被告人会社の経費であるとは認められない。
弁護人は、現金払の56・5・19の五九七円、5・20の一、〇五〇円、5・26の五六〇円、6・30の四三〇円の各ガソリン代につき、被告人会社の経費である旨主張する。
しかし、当座勘定入出金調査表によれば、毎月相当額のガソリン代が小切手等を用いまとめて支払われている。弁護人指摘のものは金額も少なく現金払されていることからすれば、被告人会社の業務のためのガソリン代とは認められない。
(3) 弁護人は、被告人杉林の千里ゴルフ場でのゴルフプレー代、ロッカー料、ゴルフチケッ卜代、母の日祝代、高槻へのお供代、台湾旅行、小豆島への旅行、スキー代の支出は、被告人会社の営業のための交際費であり、同会社の必要経費である旨主張する。
被告人杉林のゴルフ練習に要した支出は、それ自体被告人会社の営業との密接な関連はない。また五六年の家計簿(同号3の1)の六月欄には、被告人杉林の子供秀一、祐次がゴルフ練習をした旨の記載があり、このプレー代も同様である。
54・5・15出金一万円母の日お祝分は、被告人会社の業務に関連性はない。
54・9・4出金六七、〇〇〇円台湾旅行分は、被告人杉林の右旅行自体、未だ被告人会社の業務と密接な関係はない。
また、弁護人は右旅行期間中の六〇、〇〇〇円、三、五〇〇円、一二、一〇〇円、二五、〇〇〇円、二八、〇〇〇円の買物分は、従業員に買い与えたもので給料に付加した給付に該当する旨主張する。被告人杉林は、公判廷において右主張にそう供述をするが、現物給付である旨の供述部分は到底措信できない。
54・12・10出金一三、五〇〇円の高槻の供分につき、被告人杉林は、仕事上の得意先の法事にお供えした旨供述するが、その詳細は不明であり、被告人会社の業務との関連性は未だ認められない。
55・10・9出金二三、〇〇〇円小豆島ヨット分は、同年の家計簿の八月三〇日欄には、坂本、小林らと小豆島へ旅行関係の記載があり、未だ業務との関連性はない。
56・3・12出金五六、二〇〇円スキー代分は、同年の家計簿(同号の3の1)によれば志賀高原へのスキー代であり、業務との関連性はない。
56・3・12出金二万円ポルシェ会費分は、前説示のとおり被告人杉林の車輌であり、被告人会社の車輌運搬具費はもとより交際費にもあたらない。
56・5・24現金払四、〇〇〇円彦根、名古屋分は、家計簿の同日欄の記載によれば、彦根市内の病院に入院中の堤を見舞った際の名神高速道路のベンツの通行料金であり、未だ業務との関連性は認められない。
(4) 弁護人は、被告人杉林の子供秀一や祐次は、被告人会社の米穀販売のため、単車や自動車の運転免許を取得し、配達業務に従事したので、自動車教習所の授業料、テキスト代、免許試験料は被告人会社が負担すべき必要経費であり車の購入費も同様である旨主張する。
被告人杉林は、公判廷において右主張にそう供述をしている。戸籍謄本によれば、秀一は昭和三四年一〇年一三日生れ、祐次は同三八年二月四日生れであり、家計簿等によれば本件各事業年度には、学生であった。そして昭和五五年の家計簿の二月五日欄には「小沢午前中休み、秀一店を見る。」旨、同月二七日欄には、「小沢休み、秀一、神保二人、夜祐次」等の記載がある。
被告人杉林の大蔵事務官に対する昭和五七年三月二三日付、同年六月五日付(第二回)質問てん末書には、被告人杉林が米穀の配達などをなし、子供らはときどき店の手伝いやその配達を手伝っていた旨の供述記載がある。右供述記載は右事実に符合し、十分措信できる。
従って、秀一、祐次らは、被告人会社の従業員ではない。そうすると弁護人の指摘の費目は、被告人会社の事業とは関係はない。
(5) 弁護人は、53・9・19出金三六、〇〇〇円秀一宅建受験料分につき、被告人会社の将来の営業のための出費であり、業務上の経費である旨主張する。
なるほど法人登録簿謄本によれば、被告人会社は不動産の賃貸業を営業目的としているが、本件各事業年度において被告人会社として不動産関係の営業はしておらず、その準備も格別していない。また秀一が学生であることを考えれば、未だ被告人会社に関連する支出とはいえない。
(6) 弁護人は、秀一、祐次は、従業員のごとく被告人会社のために働いたが、給料手当として格別の金員は貰っておらず、同人らの食事代は給料乃至福利厚生費に、秀一の服代、靴代、ズボン代は制服乃至必要経費に、秀一のメガネ、コンタクトレンズ代も営業上の経費に、秀一のJAFの旅行代、スキー代、クスリ代、本代は福利厚生費に、祐次の入院費、白浜旅行代、半パン代、耳せん代等も福利厚生費に各該当し、いずれも営業経費である旨主張する。
法人の登記簿謄本によれば、秀一及び祐次は昭和五七年四月一五日被告人会社の取締役となったが、従前は何ら役員ではなく、前認定のとおりときどき被告人杉林の指示を受け被告人会社の配達業務等を手伝っていたに過ぎない。
従って、同人らの食事代、洋服代、靴代、旅行代、スキー代、耳せん代が被告人会社の業務との関連性はない。なお、被告人杉林は、秀一らの服は仕事用である旨供述するが、たやすく措信できない。
55・7・30出金二三、一〇〇円秀一のメガネ代につき、被告人杉林は、秀一は手伝中メガネを割った旨供述するが、同年の家計簿の七月欄には格別その旨の記載がなく、たやすく措信できない。右メガネ代、更に54・9・11出金一五、四〇〇円秀一コンタクトレンズ代はいずれも被告人会社の業務との関連性は認められない。56・5・30出金一、五〇〇円秀一の病気クスリ代も同様である。
54・1・23出金二四、三一八円祐次入院費につき、昭和五四年の家計簿の一月一二日欄には、「大阪学院学校で右手折れる、大阪中央病院入院」との記載があり、右入院費は被告人会社の業務との関連性はない。
(7) 弁護人は、被告人杉林の妻百合子が通う京都着物教室の授講料、毎日茶道教室の受講料、シルツクきもの匠代、野村着物、着物テスト代や百合子の本代は、被告人会社の事業経費である旨主張する。
しかし、被告人会社は、きもの学院等の設立のため格別な準備はしておらず、定款変更等の手続もなされていない。従って、右支出行為は、被告人会社の営業に関連する経費であるとはいえない。
56・4・23出金一五六、二五〇円の4・21振出匠分は、同女記載と思われる家計簿(同号の4)の同月二一日欄によれば、百合子の帯納め等の代金であり、56・5・8出金一五、〇〇〇円、3・16振出着物分は、三月一六日欄によれば野村着物での購入分、56・5・12出金一四、〇〇〇円の3・26振出着物分は、三月二六日欄によればお召等の購入分、56・6・3出金三〇、〇〇〇円の4・13振出着物分は、四月一三日欄によれば、同女の着物買物分と認められる。従って弁護人指摘の着物代は、いずれも百合子の購入した着物代と認められ、被告人会社の経費にはあたらない。
なお、55・12・5出金一、〇〇〇円のグレース幼稚園への寄付は、被告人会社の事業と関連はなく、寄付金に該当しない。
55・12・27出金四、九〇〇円百合子本代分は、右振出の小切手帳に被告人杉林家族生活費分の記号「C」が記載されている。事業との関連性はない。
(8) 弁護人は、カメラ、カメラバックにつき、被告人会社が精米機購入し、形状・故障個所を撮影するため、購入したもので、購入費は営業経費である。またこれらは被告人会社の工具器具備品として法定の減価償却をすべきである。また写真代も営業経費である旨主張する。
被告人杉林は、公判廷において、プロパンガスの配管工事後、その配管状況を写真撮影し、関係官署に提出するため右カメラを買い求めた旨供述するが、他方では既設のプロパンガスが都市に切替えられた旨供述し、また写真代の多くは被告人杉林が加入している消防訓練時に撮影したものと思うと述べている。
右諸事情を考慮すれば、右カメラやそのバック購入が被告人会社の営業にどの程度必要であるか疑問である。また、消防団活動は、被告人会社と直接関係はなく、訓練模様を写真撮影したとしても、右写真代は被告人会社の経費には該当しない。
以上によれば、右出金はいずれも被告人会社の経費とはいえない。
弁護人は、55・12・30出金一〇三、二五〇円カラーテレビ、洗濯機分は、被告人会社の什器備品である旨主張する。
被告人会社は、什器備品として計上していない。また、右買物にあたり、小切手を振出しているが、被告人杉林の生活費支払分は「C」の記載をしているところ、本件分は「C」の記載がなされている。以上によれば、被告人会社の事業との関連性はない。
(9) 弁護人は、被告人法人は学生をアルバイトとして平均毎日延べ五名雇い入れていたが、アルバイト学生を確保するため、食事をさせたり、スキー用具を買い与え、卒業時にはネクタイ、洋服を買い与えたりしたが、これらは福利厚生費等として被告人会社の経費にあたる旨主張する。
被告人は、公判廷において、右主張にそう供述をしている。
秀一らがアルバイト学生らと食事をしたことを的確に示す証拠はない。
被告人杉林は、アルバイト学生を確保するため、スキー用具、スキーウエアを買いそろえた旨供述し、その写真がある旨述べるが、家計簿には格別アルバイト学生らとスキーに行った旨の記載はない。また被告人杉林は55・1・18出金四万円1・14好日山荘スキー代につき、学生アルバイト用のスキーを買った旨供述するが、家計簿の一月一四日欄には、「秀一と同店で羽根ジャンパー四万円で買った」旨の記載がある。
被告人杉林は、昭和五七年年三月二三日大蔵事務官に対し、「配達に関大のアルバイト学生を雇うことはあるが、ほとんど一人で会社の事業を行う。麻雀店「杉」はアルバイト学生に任すが、一年の内半年しか営業しない。泉町支店は女の受付一人を置く。」と述べ、同年五月一二日には「私と妻のほか泉町支店と本社にパートの女性が各一人いるだけです。忙しいときに息子に手伝わす。」旨、同年六月一二日には「パート料を支払うのは、泉町支店の小沢、本社のパート一人(主婦か学生)、麻雀店の一人(学生)、集金の忙しいときのパート(学生)、である。その人件費は五六年度三六〇万円、五五年度、五六年度三〇〇万円である。」旨述べている。この供述記載は、前後一貫している。また当座勘定入出金調査表中のアルバイト学生への金員支払の状況とも符合している。また、家計簿中のアルバイト関係と認められる記載とも符合している。
以上の諸事実によれば、被告人の右供述部分はたやすく措信できない。
(10) 白石牛乳へ支払った牛乳代は福利厚生費乃至事業費である旨主張する。
被告人杉林は、アルバイト学生や子供らに牛乳を与えていた旨供述するが、その供述内容は必ずしも判然としない。
被告人杉林は、捜査段階において、バイト学生に対する人件費の一部或いは福利厚生費との主張もしていない。前説示のとおり秀一らは従業員ではなく、アルバイト学生も少なかったことからすると、右供述部分はたやすく措信できない。そして、牛乳代であることからすれば、未だ被告人会社の事業に密接に関連する福利厚生費とは認められない。
(11) 弁護人は、西川清掃に支払った清掃代は、被告人会社本社店舗の清掃代、有限会社今日屋のクリーニング代あるいは現金払中のセンタク代は、同店舗のカーテンのクリーニング代であり、いずれも被告人会社の経費である旨主張する。
まず右清掃代についてみるに、被告人会社本社建物は米穀店用店舗、麻雀店用店舗兼被告人杉林ら家族の住居用建物である。また被告人杉林は松栄ヴイラを所有している。55・9・5出金、55・9・27出金、55・11・11出金各二、〇〇〇円は、いずれもヴイラ分である。従って55・10・28出金二、〇〇〇円10・27振出分も、右振出日及び金額など考慮すれば、松栄ヴイラ分と思われるとともに、右本社建物が店舗兼住宅であることからすれば、未だ被告人会社の経費といえない。
次にクリーニング代等であるが、当座勘定入出金調査票により認められる今日屋への支払回数及び金額を考慮すれば、被告人会社の物品のクリーニング代とは到底認められない。
(12) 弁護人は、55・7・10出金7・6振出五、三五四円、55・7・30出金、7・27振出八、四二〇円の各ダイエー買物分につき、店舗用小間物を購入したもので、被告人会社の消耗品にあたる旨主張する。
被告人杉林は、弁護人主張にそう供述をしているが、昭和五五年の家計簿の七月六日欄には、「曽根ダイエー半ズボン二、八〇〇円」の記載があり、右各振出の小切手帳には被告人杉林の家族生活費分の記号「C」が記載されている。従って、右供述部分は措信できず、被告人杉林の生活費である。
弁護人は、56・3・12出金七、四五〇円正月用しめなわ分は、被告人会社の経費である旨主張するが、経費とならない生活費の支払である「C」の扱いをして小切手を切っていることを考えると、未だ経費とはいえない。
弁護人は、56・6・2支払四八〇円本代分は、麻雀店舗用の雑誌代である旨主張し、被告人杉林もこれにそう供述をしている。しかし、その前後には、秀一や祐次の本代等の出費も認められ、家計簿の昭和五六年四月二九日欄には、「祐次大阪へ本買いに行った」旨の記載もあり、右供述部分はたやすく措信できない。
(13) なお弁護人指摘の54・7・4出金一七〇、四〇〇円小西義彦分は外注費に、54・12・27出金一、八五六円日新自動車分は修繕費に、56・2・7出金三、六〇〇円米穀配当割当手数料分は手数料に、55・4・3出金二三、〇〇〇円いすず小型自動車スバルホロー分は消耗品費に、55・5・16出金六三万円旭紙工社分は仕入に、55・5・29出金五八、七一〇円西田タバコ分は仕入へ、それぞれ振替られ、検察官において既に被告人会社経費としている。
(14) その他弁護人主張の費目も、いずれも被告人会社の必要経費とは認められない。
六 弁護人は、借入金につき、次のとおり主張する。
1 被告人杉林は、個人として松栄ヴイラを所有していたが、検察官主張の家賃等の銀行振込及び現金入金の他、弁別表四記載の現金入金があり、この金額が被告人会社の所得に混入しているから、同金額を被告人会社の被告人杉林からの借入金として計上すべきである旨主張する。
被告人杉林は、公判廷において弁護人主張にそう供述をしており、その根拠として通常大学生や専問学校生徒が入居して満室である旨述べている。
被告人杉林は、松栄ヴイラにつき、貸台帳一綴、松栄ヴイラ一綴を記帳しているほか、松栄ヴイラ契約証等五束、賃貸借契約書等の物証が残されている。右貸台帳、松栄ヴイラ台帳中、入居者からの銀行振込による支払分の記帳は、大阪銀行千里山支店の普通預金の被告人杉林の入金額と、一部金額の符合しないものを除き、ほとんど符合している。そうすると、右貸台帳等には、記帳もれを除き、ほぼ正確に記帳されたものと認められる。従って振込による支払分のほか、現金入金分の記載もほぼ正確なものと認められる。そして賃貸借契約者などにより入居者の入居時と退居時を確定し、その間の記帳洩れ部分を補正し、金額の記載誤りを普通預金の入金額などにより訂正する等の方法を用いて、算出した大蔵事務官作成の「松栄ヴイラ現金入金額」と題する査察官調査書は十分信用することができる。
これに対し、被告人杉林の他に入居者があり、記帳されない現金入金額があったとの供述部分は、これらの証拠に照し、たやすく措信できない。
弁護人の主張は、採用できない。
2 被告人杉林は、法人成前の昭和五一年当時プロパンガスを約七〇〇戸の顧客に供給し、その際プロパンガス配管工事を実施し、ガス管、ガスボンベ、メーターを無償で貸与したが、その後顧客が都市ガスに切替えた際、損料として一戸あたり二五、〇〇〇円から五〇、〇〇〇円(平均三〇、〇〇〇円)を現金で徴収し、昭和五四年から同五六年まで弁別表五記載の一四八件、四四四万円を徴収し、被告人会社の売上と混入したが、右金員は被告人杉林の収入であり、被告人会社の被告人杉林からの借入金として計上すべきである旨主張する。
被告人杉林は、公判廷において右主張にそう供述をしているが、損料を支払ったとする者の氏名、徴収の時期、金額についての供述部分は判然としていない。
ところで被告人会社は、昭和五一年七月三〇日会社設立後、同年一〇月一日から被告人杉林個人所有の営業資産を用いて、米穀燃料等の営業を継続したものである。そして被告人杉林は、法人設立前プロパンガス販売をなしたが、被告人会社設立後はプロパンガス販売をしていない。従って、被告人杉林の述べるとおりとしても、被告人杉林設置のガス管、ガスボンベ、メーターは、他の営業用資産と同様、法人設立後被告人会社の営業資産に帰属されたものというべきである。従って、都市ガスヘの切替に伴い顧客から入金された損料名目の金員は、被告人会社の収入となり、被告人杉林の収入とはならない。弁護人の主張は、その前提を欠く。
なお右ボンベ、メーター等の営業資産の金額は、証拠上不明である。ところで、被告人会社が被告人杉林から引継いだ個人資産の金員は未だ清算されていない。従って、右設置分だけ未払金が増額されるとしても、本件期間中、清算されていないから、結局その異同はないものと認められる。
(法令の適用)
被告人杉林の判示第一、第二の各所為は、行為時においては、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては、右改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、右は改正後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、判示第三の所為は、改正後の法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、同被告人を懲役八月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとする。
被告人杉林の判示第一乃至第三の各所為は、被告人有限会社杉林米穀店の業務に関してなされたものであるから、同被告人会社については、判示第一、第二の所為につき、右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項に、判示第三の所為は、改正後の法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で、同被告人会社を罰金五五〇万円に処することとし、訴訟費用(大阪高等裁判所における国選弁護人分)は、被告人杉林巌につき、実体審理に必要なものではないから、同被告人に負担させることはできず、被告人会社についても、刑事訴訟法四〇一条により破棄差戻されたから、負担させることはできない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 柴田秀樹)
別表1 修正貸借対照表
昭和54年6月30日現在
<省略>
<省略>
別表2 修正貸借対照表
昭和55年6月30日現在
<省略>
<省略>
別表3 修正貸借対照表
昭和56年6月30現在
<省略>
<省略>
弁別表1
<省略>
弁別表2
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
弁別表3
<省略>
<省略>
<省略>
弁別表4
<省略>
弁別表5
<省略>